適応課題 第4回:営業と経理は犬猿の仲? それ、対立型適応課題です

シリーズでお届けしている「適応課題と自走共創」。4回目はタイプ2「対立型」です。部門間の対立はなぜ起きるのかを考察していきましょう。
〜適応課題②:対立型〜
営業 vs. 経理:「お前が悪い!」の応酬はなぜ起こる?
- 営業:「もっと予算くれれば、今の倍は売れるんです!」
- 経理:「リスク高すぎます。まずコスト削減を優先しましょう。」
会議室では一応スーツ姿でビシッとやり合っているものの、
終わってみれば決着はつかず、裏チャットや居酒屋で「あいつら何もわかっていない!」と大炎上。
社長が「両方をうまく取り入れて…」とお茶を濁すも、どちらもモヤモヤする――。
これこそ対立型適応課題の典型シーンです。
「ダメパターン」あるある:社長が最終ジャッジマンになると…
- どちらかを“勝たせる”
営業が強い会社は「予算バンバン投下だ!」と攻めまくり、気づけば赤字寸前。
経理が強い会社は「まずはコストカットだ!」と守りに入り、新規投資ゼロで成長停滞。
どちらも一方に偏ると、結局はジリ貧。 - 社長が一存で決める
- 社長:「うーん…じゃあ間を取って、予算はプラス30%で!」
- 営業:「よし、勝った!」
- 経理:「社長が言うなら…」
こうなると、次から社員は「社長を味方につけたほうが勝ち」だと学びます。
提案合戦じゃなくて“社長への根回し合戦”が始まり、
組織が一丸となるどころか、裏工作が横行してしまう。 - 「お互い歩み寄れ!」と言うだけで終わる
社長:「営業も経理も、まずは協力だ!仲良くやろう!」
一同:「は、はい…(でも具体的に何をどうすれば…?)」会議中は沈黙、終わった後に居酒屋で愚痴合戦。
結局何も進まないまま、社長が「なぜ動かない?」と首をかしげる――。
対立型適応課題でありがちなのは、片方が勝っても全員ハッピーにならないこと。
特に「社長を味方につけたら勝ち」という構図は、会社の空気をいっそう悪くします。
「パーパス意訳」で見えてくる共通のゴール
では、この不毛な「お前が悪い!」応酬をどう解消すればいいのか?
カギになるのが、パーパス(企業が目指す大きな目的)を意訳して、各部署の行動に落とし込むことです。
たとえば、「健康と美味しいが持続する社会を創る」と掲げる会社があるとしましょう。
営業は「そのために市場を広げたい」、経理は「そのために長く続けられる財務基盤が必要」と考えます。
どちらも同じパーパスのために動いている…はずなのに、言い争いになるのはなぜでしょう?
実は、社長が示す“社会全体の未来”が各部署に十分意訳されていないから。
具体的に「営業はパーパス実現にどう貢献するのか?」「経理はどうサポートすればいいのか?」が曖昧だと、
片方は攻め、もう片方は守りという「正しい×正しい」の正論合戦がいつまでも続きます。
パーパス意訳の進め方(例)
- パーパスを共有し、具体的な“未来の姿”を描く
- 「健康と美味しいが持続する社会」とは、どんな世の中?
- そこに自社はどう関わり、お客様にどんな価値を提供する?
- 会社が描く大きなゴールを全員でイメージする。
- 各部署が「自分たちはこんな行動をする」と言語化
- 営業: 新規販路を開拓し、多くの人に健康的商品を届ける。
- 投資提案には「リスク管理策」もセットで提示し、経理が検討しやすい材料を提供。
- 経理: 投資基準に「パーパス貢献度」を盛り込み、
- 守り一辺倒ではなく「どうすれば投資を通せるか」を営業と共に考える。
- 営業: 新規販路を開拓し、多くの人に健康的商品を届ける。
- パーパスのために「どう協力するか」の会話にシフト
- これまで「お前が悪い!」だった議論が、
「パーパス実現のために何が必要?」「どうすればリスクを許容できる?」へ変わる。 - 「攻め vs. 守り」から、「攻めと守りを両立させる具体策」へ頭が切り替わる。
- これまで「お前が悪い!」だった議論が、
なぜパーパス意訳は奏功するのか?
- “勝ち負け”の構図を超えて、共通ゴールに向かえる
- 社長へのゴマすり合戦ではなく、
「パーパス実現に向けて、自分たちの役割をどう果たすか」が競争軸になる。 - 攻めの営業と守りの経理が、両方大事なピースだと自然に認識できる。
- 社長へのゴマすり合戦ではなく、
- 具体的な行動レベルで議論が進む
- 単に「仲良くやろう!」ではなく、
「投資にOKを出すための基準をどう設定するか?」といった具体的な話に落ちる。 - 結果、会議後にモヤモヤが残りにくい。
- 単に「仲良くやろう!」ではなく、
- 組織に一本の“自走共創”ラインが通る
- 営業と経理だけでなく、他部署も「うちは何をする部署なんだ?」と考える流れが生まれる。
- いずれは社長がいちいち裁定しなくても、社員同士で協力し合う文化が育つ。
まとめ:パーパス意訳で“お前が悪い!”を“一緒にやろう!”に変える
営業と経理が対立するのは、「どちらかがダメ」だからではありません。
両者の正論が噛み合わないだけで、本来は同じ目的を見ているはず。
- ダメパターンを繰り返していると、組織は社長のご機嫌取りや、片方が強権を振るうだけのギスギス状態に陥ってしまう。
- パーパス意訳を使って、各部署が「自分たちの行動」を具体化すれば、会社の未来を共有しやすくなる。
- 結果、攻めと守りという両輪がかみ合い、組織が自走し始めるのです。
これで、「お前が悪い!」の不毛な応酬が、
「どうすればパーパスを実現できる?」に変わるかもしれません。
“対立型適応課題”を乗り越えるヒントとして、ぜひ試してみてください。
次回予告:「言いにくいことを言わず、ゆでガエルになる会社」
次回は、「適応課題の4つのタイプ」の3つ目、「抑圧型」について。
言いにくいことを抱え込んで、抱え込んで、抱え込んで・・・気づけば大損失。
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