適応課題 第3回:言ってることとやってること、違いますよね?

シリーズでお届けしている「適応課題と自走共創」。3回目からはいよいよ適応課題の4タイプです。
〜適応課題①:ギャップ型〜
「提案型企業になる!」と言った社長と、静かに消えたスローガン
社長:「これからは、受注産業の時代は終わりだ!」
社長:「うちは 提案企業 になる!」
社員:「おぉー!(…で、具体的に何するんですか?)」
意識の高い会社は、こんな感じでスローガンを掲げがちだ。
そして、社内の掲示板にはドーンと張り出される。
✔ 「提案型営業への転換!」
✔ 「アイデアをどんどん出そう!」
✔ 「提案こそ、未来の成長戦略!」
おぉ…カッコいい。
さて、半年後。
社員:「…提案、ゼロですね?」
役員:「…ま、まぁ、今は助走期間だから!」
社長:「…なぜ、誰も動かない?」
そして、1年後。
掲示板から、スローガンのポスターが静かに剥がされていった――。
「ギャップ型適応課題」には2つの壁がある
この会社の何がダメだったのか?
ギャップ型適応課題には、2つの大きな壁がある。
①「スローガンの裏にある『実現したい未来』が伝わっていない」
スローガンは、言うだけならタダ。
でも、その裏にある「何を実現したいのか?」が言語化されていなければ、社員は動かない。
例えば、この会社。
社長:「提案企業になる!」
社員:「で、どういうことですか?」
社長:「いや、それはお前たちが考えるんだよ!」
社員:(経営陣も考えてないのに、なんで私たちが…)
こうなると、社員は動けない。
「提案企業になる」とは、具体的に何を指すのか?
✔ 付加価値の高い商品を開発する?
✔ 営業のアプローチを変える?
✔ 既存の業務フローを変える?
そもそも、社長が考えていない。だから、社員はもっとわからない。
こんな状態なら、スローガンなんて言わないほうがマシだ。
なぜなら、時間と労力だけが無駄にかかり、社員のモチベーションが下がるからだ。
② 社長が描いた未来は「会社の未来」、現場の未来ではない
仮に、社長が「提案企業になった未来」を描けたとしても、それは「会社全体の未来」であり、
✔ 製造部の未来でも
✔ 営業部の未来でもない。
だから、現場は「で、ウチは何をすれば?」となる。
✔ 「提案企業になれ」と言われても、製造部は「ウチは何を変えればいいの?」と戸惑う
✔ 営業部は「でも、お客様は今まで通りの注文しかしてこない」と困る
「会社の未来」は、現場の行動には落ちてこない。
だからこそ、各部署が「自分たちの未来」を描くことが必要なのだ。
「スローガンの独り歩き」が生む、悲劇のループ
この会社は、さらに「提案企業になる」ための施策を増やしていった。
✔ 提案件数を評価する人事制度を導入(←提案しないと評価されないプレッシャー)
✔ アイデア箱を設置(←ありふれた提案が数百件。その処理のために残業する日々)
✔ 提案力研修を実施(←とりあえず受けるけど、現場では何も変わらない)
なぜか?
「提案企業になる」と言いながら、会社全体のリスク回避文化は変わっていないからだ。
✔ 「アイデアを出せ」と言われても、「100%安全か?」と上司が叩く
✔ ようやくOKが出ても、製造部・品質管理部・法務部が「リスク」を指摘し叩かれる
✔ やる気があった社員ほど叩かれ叩かれ叩かれ・・・。形ばかりの提案件数が増え、処理業務が増え・・・。そして、社員がしらけていく…
社員:「…最初から言わない方がよかったのでは?」
役員:「………」
「パーパスの意訳」こそ、スローガンを行動に変えるカギ
ここで登場するのが、「パーパスの意訳」 である。
「パーパスの意訳」とは?
✔ 社長が描く「提案企業としての未来」を、各部署が「自分たちの役割」に落とし込むプロセス
例えば、営業部なら…
✔ 「お客様に新しい価値を提案するには?」
✔ 「受注型の営業から、コンサル型営業に変わるには?」
例えば、製造部なら…
✔ 「コンサル型営業を支える製造部とはどんな組織か?」
✔ 「お客様に新しい価値を届ける会社の製造プロセスとは?」
こうして、各現場が「自分たちの未来」を描くことで、初めて「スローガンが行動になる」。
最後に、社長に贈る言葉
経営者の皆さん。
スローガンを掲げる前に、まずこれを自問してください。
✔ 「このスローガンの裏にある、本当に実現したい未来は?」
✔ 「それを、社員にちゃんと伝えられているか?」
✔ 「社員が『自分たちにとっての未来』を考える機会を作っているか?」
これができていなければ、スローガンなんて言わない方がいい。
むしろ、社内の掲示板にはこう書きましょう。
「とりあえず、まずは一緒に考えよう!」
次回予告:「営業と経理は犬猿の仲? それ、対立型適応課題です」
次回は、「適応課題の4つのタイプ」の2つ目、「対立型」 について。
「組織内の対立」はなぜ生まれるのか?どうすれば解決できるのか?
次回も、エグゼクティブコーチング×自走共創の視点 で深掘りしていきます!